大切な方を亡くされた後、遺族の方が最初に直面する課題のひとつが「どんな財産が残されているのか」を把握することです。通帳が何冊あるのか、不動産はどこにあるのか、株式や投資信託は持っていたのか——書類が整理されていないと、調べるだけでも途方に暮れてしまいます。
相続財産の調査は、相続放棄の判断や遺産分割協議(遺族全員で遺産の分け方を話し合う手続き)、相続税の申告に不可欠なプロセスです。調査が不十分なまま手続きを進めると、後から借金が発覚して大きな問題になることもあります。
本記事では、預金・不動産・株式・生命保険・負債のそれぞれについて、調査方法・照会先・必要書類を順番に解説します。
- 相続財産の調査で最初にすべきこと
- 金融機関への残高照会の具体的な手順
- 不動産・株式・生命保険の調べ方
- 負債(借金・保証債務)の調査方法
- 専門家に依頼すべき状況と費用の目安
※本記事は2024年4月時点の法令・制度に基づいて作成しています。最新情報は各機関の公式サイトや専門家にご確認ください。
相続財産の調査とは——なぜ必要なのか
相続財産の調査とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた財産と負債のすべてを把握する作業です。財産には預貯金・不動産・有価証券・生命保険金・車・貴金属などが含まれ、負債には借入金・住宅ローン・クレジットカードの未払い・連帯保証債務なども含まれます。
財産調査が必要な理由は大きく3つあります。
第一に、相続放棄の判断です。借金が資産を上回る場合、相続放棄(民法第938条)を選択することで債務を引き継がずに済みます。ただし相続放棄は「相続の開始を知った時から原則3か月以内」(民法第915条)に申述しなければならないため、早期の財産調査が欠かせません。
第二に、遺産分割協議です。相続人全員で「誰が何を受け取るか」を決める話し合いをするには、まず全財産を把握している必要があります。調査が不十分だと、後から新たな財産や負債が出てきて協議をやり直すことになりかねません。
第三に、相続税の申告です。相続税は被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内に申告・納付が必要です(相続税法第27条)。財産評価の基礎となる調査をおろそかにすると、申告漏れや過大申告につながる場合があります。
調査を始める前に確認しておきたいこと
財産調査を始める前に、故人との関係で「自分が相続人かどうか」を確認しておきましょう。民法では法定相続人の範囲が定められており(民法第887条・第889条・第890条)、配偶者は常に相続人となり、子・親・兄弟姉妹の順で相続権があるとされています。
相続人でない方が金融機関への照会を行っても、個人情報保護の観点から対応してもらえないケースが多いため、まず戸籍謄本で相続関係を確認しておくことが重要です。
また、故人が遺言書(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれか)を残している場合は、遺言書の内容が遺産分割の基礎となります。自筆証書遺言は法務局の遺言書保管制度に預けられている可能性もありますので、合わせて確認しておくとよいでしょう。
法務局の遺言書保管制度(2020年7月施行)では、相続人が「遺言書保管事実証明書」の交付を請求することで、遺言書の有無を確認できます。
財産調査の全体的な流れ
財産調査は大きく「自宅での書類確認」「金融機関への照会」「不動産の調査」「有価証券の調査」「負債の調査」という順で進めるのが効率的とされています。
自宅での書類確認が最初のステップです。故人の自宅に残る通帳・印鑑・権利証(登記済証または登記識別情報)・証券口座の書類・生命保険証券・クレジットカード・借用書などを一か所に集めます。これだけで財産の全体像がかなり見えてくるケースも少なくありません。
郵便物のチェックも欠かせません。金融機関からの明細や投資信託の運用報告書、クレジットカードの請求書など、口座の存在を示す手がかりが郵便物として届いている場合があります。亡くなった後も一定期間は郵便物の転送ができますので、活用を検討してみてください。
預金・貯金の調査方法
預金の調査は、通帳や印鑑の有無・金融機関への残高照会という二段階で進めます。日本では複数の金融機関に口座を持っている方が多く、故人が使っていた銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行などをすべてリストアップする必要があります。
自宅での通帳・印鑑の確認
まず故人の自宅(引き出し・金庫・タンス・仏壇周辺など)を丁寧に確認します。通帳は金融機関ごとに異なる冊数あることが多く、複数枚出てくることも珍しくありません。
通帳が見当たらない場合でも、印鑑が複数本見つかったときは、それぞれ異なる金融機関に対応している可能性があります。 金融機関の届出印と、実印・認印の使い分けに気をつけながら確認してください。
また、ネット銀行(楽天銀行・PayPay銀行・住信SBIネット銀行など)は通帳が発行されないため、故人のパソコンやスマートフォンの金融系アプリ・メールのパスワードリセット通知から存在が発覚するケースがあります。デジタル遺産の調査は近年重要性が増しており、専門家と相談しながら進めることも選択肢のひとつです。
金融機関への残高照会・取引履歴の請求
通帳などから口座の存在が確認できたら、各金融機関の窓口で残高照会と取引履歴の開示を求めます。取引履歴を確認することで、故人が定期的に引き落としていたローンや保険料の存在が浮かび上がることがあります。
金融機関へ照会する際に必要とされる書類は、一般的に以下のとおりです。
- 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(死亡記載のあるもの)
- 自分が相続人であることを確認できる戸籍謄本
- 照会者本人の本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
- 各金融機関所定の照会申請書(窓口で入手)
なお、金融機関は被相続人の死亡を把握した時点で口座を凍結(出金・振込を停止)することが一般的です。凍結後は相続手続きが完了するまで原則として出金できなくなりますので、葬儀費用の支払いなど急ぎの資金が必要な場合は、仮払い制度(民法第909条の2に基づき相続人単独で一定額を仮払いできる制度)の活用を検討してみてください。1金融機関につき最大150万円を上限として引き出せるとされています(遺産総額の3分の1×法定相続分が上限)。
口座凍結後に無断で出金すると、他の相続人との間でトラブルに発展する可能性があります。凍結前であっても、相続人全員の合意なく多額の現金を引き出すことは避けた方が無難です。
ゆうちょ銀行・農協・信用組合への照会
ゆうちょ銀行は全国共通の手続き窓口があり、相続手続きの専用書類(「貯金等相続手続請求書」等)を用いて残高照会や払い戻しを申請します。ゆうちょ銀行は地方に住む高齢者が利用しているケースが多く、見落とされやすい金融機関のひとつです。
農協(JA)・信用組合・信用金庫なども同様に相続専用の窓口手続きが設けられています。地域の金融機関には独自の書式があることが多いため、事前に電話で必要書類を確認してから窓口を訪問すると無駄がありません。
不動産の調査方法
不動産は財産の中でも価値が大きく、調査漏れがあると後の相続税申告や名義変更(相続登記)に支障をきたします。特に故人が複数の土地や建物を所有していたり、山林・農地・駐車場など日常的に目につかない不動産があったりするケースでは、注意が必要です。
登記事項証明書(登記簿謄本)の取得
不動産の所有者・面積・抵当権の有無などを確認するには、法務局(登記所)で登記事項証明書を取得するのが基本の手順です。
登記事項証明書はオンライン申請(登記情報提供サービス・登記ねっとなど)でも取得できます。オンライン申請は窓口に出向く必要がなく、閲覧のみなら1件334円(2024年時点)、証明書の郵送交付は1件500円程度です。
ただし、登記事項証明書を取得するには地番(不動産の住所とは異なる土地固有の番号)が必要です。地番を確認するには固定資産税の納税通知書(毎年4月〜6月頃に届く)や、役所が発行する「名寄帳」(固定資産税の課税台帳から相続人が取得できる一覧)を参照するのが効率的です。
名寄帳は市区町村の税務課(固定資産税担当)で相続人が請求できます。費用は1通数百円程度で、故人が所有していた不動産の一覧が得られます。固定資産税の課税対象になっていない山林や私道持分が含まれていない場合があるため、さらに詳しく調べる際は法務局への直接確認が有効です。
抵当権・差押えの確認
登記事項証明書の「権利部(乙区)」には、抵当権(金融機関が担保として設定する権利)や差押えの記録が記載されています。ローンが残っている不動産を相続すると、原則としてローン債務も引き継ぐことになります。
団体信用生命保険(団信)に加入していた場合は、被相続人の死亡によってローン残高が保険で清算される場合があります。住宅ローンの融資先金融機関に団信加入の有無を確認してみましょう。
また、農地については農業委員会への確認が必要なケースがあり、都市計画法上の用途地域によって利用制限が異なることも念頭に置いておくとよいでしょう。
固定資産評価額の確認と相続税評価
不動産の相続税評価額は、土地については「路線価方式」または「倍率方式」、建物については「固定資産税評価額」を基準に計算するのが一般的です(国税庁「財産評価基本通達」に基づく)。
路線価は国税庁が毎年公表しており、国税庁ホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」から確認できます。評価計算は複雑なケースもあるため、相続税申告が必要な場合は税理士への相談を検討することをお勧めします。
株式・投資信託・有価証券の調査方法
近年、故人が証券口座を持っていたり、NISAやiDeCoを利用していたりするケースは増えています。有価証券は通帳のように手元に現物が残らないことも多く、見落としが生じやすい財産です。
証券会社への照会手順
証券口座の存在は、証券会社からの郵便物(取引残高報告書・配当金通知・株主総会招集通知など)や、故人のスマートフォン・パソコンにインストールされた証券会社のアプリから確認できます。
証券会社への相続照会は、各社の「相続手続き窓口」に電話またはウェブフォームで連絡するのが一般的です。 主要ネット証券(SBI証券・楽天証券・松井証券等)はそれぞれ独自の相続手続きサービスを設けており、書面提出によって残高照会や名義変更の手続きが進められます。
株式・投資信託の相続税評価額は、原則として被相続人の死亡日の終値(または前後1か月の平均株価のうち最低の価格)を基準に計算されます。上場株式の評価方法は国税庁のタックスアンサーで詳しく解説されています。
未上場株式・非上場株式の調査
故人が会社を経営していたり、中小企業に出資していたりした場合、非上場株式が財産に含まれることがあります。非上場株式の評価は複雑で、会社の財務状況によって大きく異なります。
非上場株式は市場価格がないため、評価を誤ると相続税の申告に影響します。税理士に評価を依頼することを強くお勧めします。
また、出資していた会社の株主名簿を確認することで、持株数や持分割合を把握できます。会社の登記簿(法人登記)も法務局で取得可能です。
NISAロ座・iDeCoの確認
NISA口座は証券会社や銀行に開設されており、被相続人の死亡と同時に非課税の効力が消滅します(相続人に引き継ぐことはできません)。口座に残っている有価証券は通常の相続手続きで払い出しを受けることができます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、被相続人が60歳未満で亡くなった場合は「死亡一時金」として遺族が受給できます。加入していた金融機関(運営管理機関)に連絡して手続きを進めましょう。死亡一時金は相続財産ではなく「みなし相続財産」として相続税の計算に含まれる点に注意が必要です。
生命保険・死亡保険金の調査方法
生命保険の死亡保険金は、受取人として指定されている方に支払われるもので、原則として「遺産分割の対象にならない財産」とされています。ただし相続税の計算上は「みなし相続財産」として取り扱われるため(相続税法第3条)、保険の有無を調べておくことが重要です。
生命保険契約照会制度の活用
2021年7月から、一般社団法人生命保険協会が「生命保険契約照会制度」を提供しています。この制度を利用すると、生命保険協会の加盟会社(生保42社・損保2社・外資系保険会社等)に対して一括照会が可能です。
一度の申請で複数の保険会社をまとめて調べられるため、加入会社が不明な場合でも効率よく調査を進められます。照会手数料は1回3,000円(税込)で、相続人等であれば申請できます。
照会の際には、被相続人の死亡を確認できる書類(戸籍謄本等)と申請者の本人確認書類が必要です。詳細は生命保険協会の公式サイトをご確認ください。
個別保険会社への問い合わせ
郵便物や保険証券から保険会社が判明している場合は、各社のコールセンターや窓口に直接連絡します。契約内容・受取人・保険金額の確認ができます。また、保険証券が見つからない場合でも、保険会社が証明書の再発行に応じてくれるケースが多いです。
かんぽ生命(日本郵政グループ)や共済(JA共済・都道府県民共済等)も独自の手続き窓口があります。共済については、郵便局や農協の窓口に問い合わせるとよいでしょう。
負債・借金の調査方法
財産調査で見落とされやすいのが負債(マイナスの財産)です。住宅ローン・カードローン・消費者金融への借入・連帯保証・未払いの税金など、種類は多岐にわたります。負債を把握せずに相続を承認すると、予期しない借金を引き継ぐことになりかねません。
信用情報機関への照会
故人の借入状況を調べるには、信用情報機関への照会が有効です。日本には主に以下3つの信用情報機関があります。
- CIC(クレジット情報):クレジットカード・割賦販売の情報
- JICC(日本信用情報機構):消費者金融の借入情報
- KSC(全国銀行個人信用情報センター):銀行ローン・保証情報
相続人は各機関に「相続に伴う開示請求」を申請することで、被相続人の信用情報を確認できます(手続き方法・必要書類は各機関の公式サイトを参照)。照会には費用がかかる場合があります。
税金・公租公課の確認
未納の税金や社会保険料は相続人が引き継ぐ義務があります。市区町村役場や税務署で未払い税金がないかを確認することを忘れないようにしましょう。
固定資産税・住民税・所得税・介護保険料など、故人が未払いのまま亡くなっていた場合、法定相続分に応じて相続人が納付義務を負うとされています。役所の税務窓口に「被相続人の税金の未払いがないか」を確認しに行くと、一覧で教えてもらえることがあります。
連帯保証債務の調査
連帯保証人(主たる債務者が返済できない場合に代わりに返済する義務を負う人)になっていた場合、保証債務も相続の対象となります。連帯保証の契約は金融機関や知人・親族との間で結ばれていることがあり、書類がなければ判明しにくいのが実情です。
故人の仕事関係・取引先・知人への聞き取り、あるいは弁護士への調査依頼が有効なアプローチとなる場合があります。連帯保証債務が発覚した場合の対処については、弁護士にご相談ください。
財産調査でよく見落とされる財産の種類
一般的な預金・不動産以外にも、相続財産として把握しておくべきものがあります。見落としが多いケースをまとめました。
電子マネー・暗号資産(仮想通貨)
PayPay・楽天ポイント・Suicaなどの電子マネーやポイントは、サービス規約によっては相続の対象とならないことがあります。一方、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は財産として相続の対象となります。
暗号資産は取引所のアカウントにアクセスできなければ資産を移せないため、故人がIDやパスワードをどこかに記録していないか確認することが重要です。 秘密鍵を紛失した場合、資産の回収が困難になる可能性があります。
貸付金・売掛金
故人が誰かにお金を貸していた場合、その貸付金も相続財産に含まれます。親族間の貸し借りは書面になっていないことも多く、遺族間でトラブルに発展しやすいため注意が必要です。通帳の大口出金履歴や手書きのメモ・借用書から存在が発覚することがあります。
著作権・特許権などの知的財産権
作家・アーティスト・発明家などの場合、著作権・特許権・商標権なども相続の対象となります。これらの権利は相続人に受け継がれ、ロイヤリティ収入が発生する場合もあります。専門家(弁護士・弁理士)への相談をお勧めします。
未請求の給付金・還付金
被相続人が会社員だった場合、死亡退職金や未払い給与が発生していることがあります。また、確定申告の還付金・高額療養費の請求未済分なども財産に含まれます。勤務先や健康保険組合への確認をおすすめします。
財産調査の費用と期間の目安
財産調査にかかる費用と期間は、財産の規模・複雑さ・専門家の関与有無によって大きく異なります。
| 調査対象 | 主な照会先 | 費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 不動産(登記事項証明書) | 法務局 | 1通600円〜 | 即日〜1週間 |
| 不動産(名寄帳) | 市区町村役場 | 1通数百円 | 即日〜数日 |
| 金融機関残高照会 | 各金融機関窓口 | 無料〜数百円 | 1〜2週間 |
| 生命保険(一括照会) | 生命保険協会 | 3,000円(税込) | 約2週間 |
| 信用情報(借入調査) | CIC・JICC・KSC | 各数百円〜千円 | 1〜2週間 |
| 遺言書の有無確認 | 法務局 | 数百円 | 即日〜数日 |
| 専門家(弁護士・司法書士)依頼 | 各事務所 | 数万円〜数十万円 | 1〜3か月 |
財産調査全体にかかる期間は、シンプルなケースで1〜2か月、財産が複雑な場合は3か月以上かかることもあります。相続放棄の申述期限(3か月)や相続税の申告期限(10か月)を意識しながら、余裕を持って進めることが重要です。
専門家への相談が必要なケース
財産調査は相続人自身で行うことも可能ですが、状況によっては専門家の力を借りた方がスムーズに進む場合があります。
こんな場合は専門家への相談をお勧めします
- 財産の全体像がまったく見えない・書類が散乱している
- 故人が事業を営んでいた(非上場株式・事業用不動産・借入金がある可能性)
- 複数の都道府県に不動産がある
- 相続人が複数おり、関係が複雑である(異母兄弟・認知した子など)
- 相続放棄の検討が必要(3か月以内に判断が必要)
- 相続税の申告が必要かどうかわからない
- 連帯保証債務の可能性がある
弁護士は財産調査から遺産分割協議・調停まで総合的に対応し、司法書士は不動産の相続登記・財産調査に強みを持ちます。 相続税の申告が必要な場合は税理士への依頼が不可欠です。
専門家費用の目安と選び方
弁護士への相続相談は初回無料としている事務所が多く、その後の依頼費用は相続財産の規模によって異なります。遺産額が3,000万円以下の場合で30〜50万円程度、それ以上の場合は財産額の1〜3%程度が費用の目安とされているケースが多いようです(ただし事務所により異なります)。
司法書士への相続手続きの依頼は、不動産の名義変更(相続登記)単独であれば10〜15万円程度が相場とされています。財産調査から登記まで一括依頼すると20〜40万円程度になることもあります。
専門家選びでは、相続分野の実績・初回相談の対応の丁寧さ・費用の透明性を確認することをお勧めします。複数の事務所に相談して比較検討するのも有効です。
相続財産調査でトラブルになりやすいケースと対処法
財産調査は単に書類を集めるだけではなく、予想外の問題が出てくることもあります。よくあるケースとその対処法を知っておくと、いざというときに慌てずに対応できます。
相続人間で財産の開示を拒否される場合
複数の相続人がいる場合、一部の相続人が財産の存在を隠したり、調査に非協力的だったりするケースがあります。特に、先に亡くなった配偶者の預金を引き出していた場合や、生前に多額の贈与を受けていた場合に問題になりやすいです。
このような状況では、弁護士への依頼が最も有効な対処法のひとつです。弁護士は弁護士照会制度(弁護士法第23条の2)を活用して金融機関への照会を行うことができます。また、家庭裁判所での遺産分割調停を申し立てることで、調停委員を介した話し合いの場を設けることも可能です。
生前に他の相続人が無断で引き出した預金は「特別受益」または「不当利得」として問題になる場合があります。 早めに弁護士に相談することで、適切な対処法を検討できます。
故人がネット銀行のみを使っていた場合
近年、ネット銀行(楽天銀行・PayPay銀行・auじぶん銀行・GMOあおぞらネット銀行等)を主な決済口座として使っている方が増えています。ネット銀行は通帳が発行されないため、通帳の有無で口座の存在を確認できません。
こうした場合の調査方法として有効なのは、故人のスマートフォンにインストールされたアプリの確認・メールの受信履歴(金融機関からの明細・通知メール)・クレジットカードの引き落とし口座の確認などです。スマートフォンのパスワードが不明な場合は、キャリアのショップで手続きを行うことで一定の対応ができる場合があります。
デジタル遺産は今後ますます増えていくと考えられるため、生前に「エンディングノート」などに口座情報をまとめておくことで、遺族の負担を軽減できます。
外国にある財産(在外財産)の調査
故人が海外に不動産を持っていた、外国の金融機関に預金があった、外国株式を保有していたというケースでは、調査が一層複雑になります。国際相続では複数の国の法律が絡み、各国の手続きを並行して進める必要があります。
在外財産については、日本国内での相続手続きと並行して現地の弁護士や日本に強い現地の専門家に依頼することが現実的です。また、国際相続に強い日本の弁護士・税理士に最初の相談をすることをお勧めします。
財産調査中に相続人が追加で判明した場合
故人に認知した子(婚外子)がいた・養子縁組をしていた・先妻との間に子がいたなど、当初把握していなかった相続人が後から判明するケースがあります。相続人の確定は、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得することで行います。
相続人が一人でも漏れていると、遺産分割協議書は無効となります。手間がかかっても、戸籍調査は正確に行うことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続財産の調査はどこから始めればよいですか?
まず故人の自宅にある通帳・権利証・証券口座の書類・生命保険証券を確認するところから始めるのが一般的です。郵便物や年賀状からも金融機関の手がかりが見つかることがあります。書類が見つからない場合は、金融機関への残高照会や法務局での不動産調査へ進みます。
Q2. 預金口座の照会に必要な書類は何ですか?
一般的には、①被相続人の死亡を証明する戸籍謄本、②相続人であることを証明する戸籍謄本、③照会者の本人確認書類(運転免許証等)、④金融機関所定の照会申請書が必要とされています。金融機関によって書式が異なるため、事前に電話で確認するとスムーズです。
Q3. 不動産の相続財産調査はどこで行えますか?
法務局(登記所)で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することで、不動産の所有者や抵当権の状況を確認できます。固定資産税の納税通知書や名寄帳(市区町村が発行)も所有不動産の一覧を把握するうえで有用です。
Q4. 財産調査に期限はありますか?
相続放棄の申述は、相続の開始を知った時から原則3か月以内とされています(民法第915条)。相続税の申告・納付期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。財産調査が遅れると放棄の判断が難しくなる場合があるため、早めに着手することが望ましいといえます。
Q5. 財産調査の費用はどれくらいかかりますか?
登記事項証明書の取得費用は1通600円程度、戸籍謄本類は1通数百円程度です。専門家(弁護士・司法書士・税理士)に財産調査を依頼する場合は、内容により数万円〜数十万円程度の費用がかかるとされています。
Q6. 相続人以外が財産調査を行うことはできますか?
金融機関への残高照会や不動産の登記簿取得は、基本的に相続人であることを証明したうえで行う手続きです。弁護士や司法書士などの専門家に依頼することで、相続人の代理として手続きを進めてもらうことができます。
まとめ
相続財産の調査は、預貯金・不動産・有価証券・生命保険・負債と多岐にわたり、「まとめて一度に」とはいかないことが多いのが実情です。しかし順序立てて進めれば、初めての方でも着実に全体像を把握できます。
重要なポイントを整理します。
- 最初に自宅の書類・通帳・郵便物を確認し、財産の手がかりをリストアップする
- 金融機関には窓口照会を申請し、通帳が見つからない口座も含めて残高を確認する
- 不動産は法務局の登記事項証明書と市区町村の名寄帳でダブルチェックする
- 生命保険協会の一括照会制度を活用し、加入保険を漏れなく把握する
- 負債は信用情報機関への照会と、役所での税金未払い確認も行う
- 相続放棄の期限(3か月)と相続税の申告期限(10か月)を常に念頭に置く
- 財産が複雑・大規模・トラブルが予想される場合は早めに専門家へ相談する
財産調査は手間がかかりますが、後のトラブルを防ぐための大切な作業です。不安や疑問がある場合は、弁護士・司法書士・税理士にご相談されることをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務的アドバイスではありません。具体的なご状況については、弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。本記事は2024年4月時点の法令に基づいています。
