家族信託とは?仕組み・成年後見との違い・費用・メリット・注意点を完全解説【2026年最新】

「親が認知症になったら、預貯金が引き出せなくなる」という話を聞いたことがあるでしょうか。実際、認知症による判断能力の低下が原因で、本人名義の口座が凍結され、必要な医療費や介護費用を引き出せなくなるケースは少なくありません。

そうした事態を防ぐ手段として、近年注目を集めているのが家族信託です。家族信託は、信託法に基づく仕組みを使って、財産の管理や処分を家族に委ねる制度です。成年後見制度とは異なり、家族が柔軟に財産を管理できる点が大きな特徴とされています。

この記事では、家族信託の定義・仕組みから、成年後見制度との違い、手続きの流れ、費用相場、デメリット・注意点まで、2026年時点の最新情報をもとに詳しく解説します。具体的には以下の内容が分かります。

  • 家族信託の仕組みと登場人物(委託者・受託者・受益者)の役割
  • 成年後見制度と何が違うのか、どちらが有利なのか
  • 手続きの4ステップと実際にかかる費用の目安
  • 信託できない財産や、受託者の負担など見落とされがちな注意点
目次

家族信託とは?わかりやすく解説

家族信託の定義と仕組み(委託者・受託者・受益者)

家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託し、その利益を受け取る人(受益者)を定める仕組みです。法的根拠は信託法(平成18年法律第108号)にあり、同法第2条第1項では「信託」を「一定の目的に従い、財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨を受託者に対し義務付けること」と定義しています。

この仕組みに登場する3者の役割を整理すると、以下のようになります。

登場人物 役割 典型的な例
委託者 財産を信託する人。財産の所有者であり、信託契約の発起人 高齢の親(財産を持つ本人)
受託者 財産の管理・処分を担う人。法的な財産名義を持つが、あくまで信託目的のために行動する義務を負う 子ども・兄弟などの親族
受益者 信託財産から生じる利益を受け取る人 委託者本人(自益信託)または子・孫

委託者と受益者が同一人物のケースを「自益信託」と呼び、家族信託ではこの形式が最も一般的です。たとえば、親が自分の不動産を子に信託し、不動産から生じる賃料収入は引き続き親が受け取るという形がこれにあたります。

重要なのは、信託財産は受託者固有の財産から切り離され、受託者が破産しても差し押さえの対象にならないという点です(信託法第23条)。これを「信託財産の独立性」といい、財産保全の観点から家族信託が評価される理由のひとつです。

手続きの流れを簡単に追うと、まず委託者と受託者が信託契約を締結し、信託の目的・信託財産の範囲・受益者・信託の終了条件などを取り決めます。不動産が信託財産に含まれる場合は、法務局で信託登記が必要です。金融資産については、信託専用の口座(信託口口座)を開設して管理します。

信託法に定める受託者の義務も把握しておく必要があります。受託者は信託目的に従った忠実義務(信託法第30条)、善管注意義務(信託法第29条)、分別管理義務(信託法第34条)を負います。家族とはいえ、法的な義務を負う立場になることを十分に理解したうえで、受託者を引き受けるかどうかを検討することが大切です。

どんな場面で使われるか(認知症対策・相続対策)

家族信託が実際に活用されているのは、主に次のような場面です。

認知症対策としての活用が最も多いケースです。高齢の親が認知症を発症すると、法律上の判断能力を失ったとみなされ、本人名義の預金口座が凍結されたり、不動産の売買契約が無効とされたりする可能性があります。認知症になる前に子に財産管理を信託しておくことで、判断能力低下後も子が財産を適切に管理・活用できる状態を保てます。

相続対策(資産承継)としての利用も増えています。遺言と異なり、信託では「自分の死後は子に、子が亡くなれば孫に」という二次・三次の承継先を事前に指定できます(受益者連続型信託)。これは遺言では実現が難しい財産の長期的な管理設計が可能になる点で、評価されています。

そのほか、障害のある子への財産承継(親亡き後問題)、賃貸不動産の管理・建替えの決断、共有不動産の凍結リスク回避など、目的に応じて幅広く使われています。

ただし、家族信託はすべての財産・すべての目的に対応できるわけではありません。農地や一身専属的な権利は信託できないなど、制度の限界を理解したうえで活用することが重要です。

家族信託が注目される背景

厚生労働省の推計によると、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になるとされています。認知症患者数の増加とともに、「財産が凍結されて困った」という相談が増えていることが、家族信託への注目度が高まっている直接的な背景です。

かつては認知症対策として成年後見制度が主な手段でしたが、家庭裁判所の関与が必須で柔軟性に乏しいという声も多く、より自由度の高い家族信託を選ぶ人が増えています。信託法が2006年に抜本的に改正され、民事信託(商事信託ではない個人間の信託)が整備されたことも、普及の一因です。

司法書士・弁護士などの専門家が家族信託の組成支援に取り組むようになり、ノウハウが蓄積されてきたことも、一般家庭が利用しやすくなった理由として挙げられます。

家族信託と成年後見制度の違い

成年後見制度のデメリット

成年後見制度は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人を保護するために設けられた制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、本人に代わって財産管理や法律行為を行います。

制度の趣旨は本人保護にあるため、後見人ができることは本人の利益のための行為に限られます。具体的には、相続税の節税目的での生前贈与や、本人の資産を使った積極的な資産運用は原則として認められません。

実務上のデメリットとして、よく挙げられるのは以下の点です。

  • 後見人に専門家(弁護士・司法書士)が選任されると、月2〜6万円程度の報酬が継続的に発生する
  • 家庭裁判所への定期報告(年1回以上)が義務づけられており、事務負担が大きい
  • 本人が亡くなるまで終了できない(後見を途中でやめたいと思っても、原則として終了できない)
  • 不動産の売却・活用には家庭裁判所の許可が必要な場合があり、迅速な対応が難しいケースがある

特に「後見が始まったら専門家後見人の費用が毎月かかり続ける」という点は、長期化するほど家族の経済的負担になる可能性があります。

家族信託の方が有利なケース

成年後見制度と比較したとき、家族信託が有利とされるケースを整理します。

比較項目 家族信託 成年後見制度
開始時期 判断能力があるうちに設計・開始できる 判断能力が低下してから申請
管理者 家族が管理(専門家不要) 家庭裁判所が後見人を選任(専門家になることも多い)
継続費用 信託後の継続費用は基本的にかからない 専門家後見人の場合は月2〜6万円程度が継続
財産管理の自由度 信託契約の範囲で柔軟に管理・処分が可能 本人利益の範囲内に限定。裁判所の許可が必要な行為も
裁判所の関与 原則不要 必須(定期報告義務あり)
相続対策との連動 受益者連続型信託で対応可能 相続対策としての活用は困難

不動産の積極的な活用(建替え・売却・賃貸化など)を想定しているケース、認知症になった後も家族だけで財産管理を完結させたいケース、受益者連続型の相続設計を行いたいケースでは、成年後見制度よりも家族信託のほうが適していることが多いとされています。

両方使う場合もある

家族信託と成年後見制度は、必ずしも二者択一ではありません。両方を併用するケースもあります。

たとえば、家族信託では財産管理(不動産・金融資産)をカバーしつつ、身上監護(医療・介護施設への入所手続きなど)については別途、任意後見制度を活用するという組み合わせです。

任意後見制度は、判断能力があるうちに自分で後見人と内容を取り決めておく制度で、法定後見と比べて本人の意思が反映されやすいとされています。家族信託+任意後見の組み合わせにより、財産管理も身上監護も家族の意思に沿った形で進められる設計が可能になります。どちらの制度を選ぶかは、財産の種類・家族構成・将来の生活設計などによって異なるため、専門家への相談をお勧めします。

家族信託の具体的な活用例

不動産の管理・処分に使う場合

家族信託が最も力を発揮する場面のひとつが、不動産の管理・処分です。

親が所有するアパートや収益不動産を信託財産に入れることで、親が認知症になった後も、子(受託者)が賃貸契約の締結・修繕・売却などを親の代わりに行えるようになります。通常、不動産の売買や賃貸借契約は本人の判断能力を必要とするため、認知症になると手続きが止まってしまうリスクがあります。家族信託を設定しておけば、そのリスクを回避できます。

具体的なイメージとして、次のようなケースが想定されます。

  • 親名義のアパートが老朽化しており、建替えや売却を検討している。認知症になる前に子に信託しておくことで、タイミングを逃さず売却や建替えの決断が可能になる
  • 複数の兄弟で共有している不動産がある。共有不動産は共有者全員の同意がないと処分できないため、あらかじめ信託によって管理者を一本化しておくことで意思決定を迅速化できる

なお、不動産を信託財産にする場合は信託登記(不動産登記法に基づく)が必要です。登記後は登記簿の所有者欄に「受託者〇〇(信託)」と記載されます。受託者名義で登記されますが、受託者個人の財産ではなく信託財産として独立して管理されます。

ただし、農地(農地法の規制があるため)・借地権(地主の承諾が必要なケースが多い)・抵当権付き不動産(金融機関の同意が必要な場合あり)などは、信託に組み込むのが難しいケースもあります。事前に専門家に確認することを強くお勧めします。

認知症になる前に手続きする重要性

家族信託を設定できるのは、委託者に十分な判断能力がある間に限られます。認知症が進行して判断能力を失った後では、信託契約を締結できません。

「まだ元気だから大丈夫」と思っている間に準備を進めることが重要です。認知症の発症は突然のことも多く、医師から「軽度認知障害(MCI)」と診断された時点ではすでに契約能力に疑義が生じる可能性もあります。実際、公証人が契約の有効性を確認する際には、委託者の判断能力を慎重に見極めることになります。

70代前半〜後半のうち、健康な状態で専門家に相談し、信託設計を完了させておくのが理想的とされています。手続きには設計から登記完了まで2〜3か月程度かかることが多いため、「いざとなってから」では間に合わないケースが少なくありません。

また、認知症の診断後でも初期段階であれば契約が有効とされることもありますが、後から「契約当時に判断能力がなかった」として無効を主張されるリスクが残ります。そのリスクを最小化するためにも、早期の検討をお勧めします。

障害のある子への財産承継

「親亡き後問題」と呼ばれる課題があります。知的障害・精神障害・身体障害などのある子どもを持つ親にとって、「自分が亡くなった後、子が財産を適切に管理できるか」「子の生活を誰が支えるか」は切実な問題です。

家族信託(受益者連続型信託)を使うと、たとえば「親が存命中は親が受益者、親の死後は障害のある子が受益者となり、健常の兄弟が受託者として管理する」という設計が可能です。

遺言では「自分の死後に障害のある子に財産を残す」ことはできても、その後の管理方法を細かく指定することは難しいとされています。信託であれば、信託契約書に「受益者の生活費・医療費の支払いにのみ使用すること」「特定の施設入所費用に充てること」などの目的を盛り込めます。

ただし、障害者の財産管理には成年後見制度の活用が必要になる場面もあるため、家族信託だけで完結するかどうかは個々の状況によります。福祉的支援と組み合わせた総合的な設計が求められます。

家族信託の手続きの流れ

STEP1:信託の設計(目的・受託者・財産の確認)

家族信託の最初のステップは「信託の設計」です。司法書士や弁護士などの専門家と相談しながら、以下の事項を決めていきます。

  • 信託の目的:何のために信託するか(認知症対策、相続対策、障害者支援など)
  • 信託財産の範囲:どの財産を信託に入れるか(不動産・預貯金・有価証券など)
  • 受託者の選定:誰が管理するか(子・兄弟など。法人が受託者になることも可能)
  • 受益者の指定:誰が利益を受け取るか(自益信託の場合は委託者本人)
  • 信託の終了条件:いつ信託を終了させるか(委託者の死亡・特定の年齢到達など)
  • 信託監督人・受益者代理人の設置:受託者の行動を監督する人を置くかどうか

この設計段階が最も重要で、時間をかけて丁寧に行う必要があります。家族間での合意形成も不可欠です。信託の設計が不十分だと、後から変更しにくい硬直した仕組みができあがってしまうリスクがあります。

設計段階での専門家との面談は通常2〜5回程度かかるとされており、状況によってはさらに時間を要することもあります。財産評価や家族間の調整も含めると、設計完了までに1〜2か月を要するケースが多いとされています。

STEP2:信託契約書の作成(公正証書推奨)

信託の設計が固まったら、信託契約書を作成します。信託契約書は私文書でも法律上は有効ですが、公正証書(公証人が作成する公文書)での作成が強く推奨されています

公正証書にするメリットは以下のとおりです。

  • 公証人が委託者の意思能力・内容の適法性を確認するため、後から「契約が無効だ」と争われるリスクを低減できる
  • 公証役場に原本が保管されるため、原本の紛失リスクがない
  • 金融機関での信託口口座開設の際に、公正証書が必要とされるケースが多い

信託契約書には、信託の目的・信託財産の特定・受託者の権限・受益者の権利・信託の変更・終了に関する条項などを具体的に記載します。漏れや曖昧な表現があると、後のトラブルの原因になるため、専門家によるドラフトチェックが重要です。

公証人費用は信託財産の評価額によって異なります(後述の費用一覧を参照)。公証役場への事前相談から公正証書作成まで、通常2〜4週間程度を見込みます。

STEP3:信託口座の開設・財産の移転

信託契約書が完成したら、信託財産を実際に移転させます。財産の種類によって手続きが異なります。

金融資産(預貯金)の場合は、「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を開設して、委託者の預金を移管します。信託口口座とは、「受託者○○(信託)」という名義の専用口座で、受託者の個人資産とは明確に分離して管理されます。ただし、信託口口座を開設できる金融機関は限られており、対応する銀行・信用金庫を事前に確認しておく必要があります。

不動産の場合は、法務局で信託登記(受託者への所有権移転登記+信託の登記)を申請します。登記後は登記事項証明書に信託目録が記載され、信託財産として明示されます。登録免許税が発生します(後述)。

有価証券(株式・投資信託など)については、信託できない金融機関・証券会社も多く、事前確認が必須です。また、非上場株式の信託には会社定款や株主間協定との整合も確認する必要があります。

STEP4:信託の開始・管理

財産移転が完了すると、信託が正式にスタートします。受託者はここから信託財産の管理者としての義務を負います。

受託者が行う主な管理業務は以下のとおりです。

  • 信託口口座の出納管理(収入・支出の記録)
  • 不動産の管理(賃貸契約・修繕対応・固定資産税の納付)
  • 信託財産の状況についての受益者への報告(信託法第36条)
  • 信託計算書の作成(税務申告に必要)

信託法第37条により、受託者は毎年1回以上、受益者に対して財産状況を報告する義務があります。また、受益者が受け取る信託収益(賃料収入など)は所得税の課税対象となるため、確定申告が必要になる場合があります。

信託の管理は長期にわたることが多く、受託者が高齢になったり、転居・死亡などの事情が生じた場合に備えて、信託契約書に「後継受託者」を定めておくことを推奨する専門家が多いとされています。

家族信託の費用相場

司法書士・弁護士への依頼費用

家族信託の組成を専門家に依頼する場合、費用は信託財産の評価額・内容の複雑さによって幅があります。以下は一般的な目安です。

費用項目 目安金額 備考
信託設計・契約書作成(司法書士) 30〜60万円程度 信託財産の評価額・複雑さによる
信託設計・契約書作成(弁護士) 50〜100万円程度 争い・紛争リスクが高い場合は弁護士が適切
信託監督人の設置(専門家) 月2〜3万円程度(継続) 任意。長期信託で設置が推奨されるケースも

司法書士と弁護士のどちらに依頼するかは、家族間の関係性や紛争リスクの有無で判断するのが一般的です。家族間で円満に合意が取れており、単純な認知症対策が目的の場合は司法書士で対応可能なケースが多いとされています。一方、相続を巡る争いが想定される場合や、信託スキームが複雑な場合は弁護士への相談が適切です。

登記費用・公証人費用

費用項目 目安金額 備考
公証人費用(公正証書作成) 5〜10万円程度 信託財産評価額によって段階的に変動
登録免許税(所有権移転) 固定資産税評価額×0.3〜0.4% 土地・建物それぞれに発生
登録免許税(信託の登記) 固定資産税評価額×0.4%(土地は0.2%の軽減措置あり) 2026年3月時点の税率
登記申請代行費用 3〜10万円程度 司法書士が申請代行する場合

登録免許税については、租税特別措置法による軽減措置が設けられている場合があります。適用要件は定期的に改正されるため、手続き時点での最新情報を国税庁または専門家に確認することをお勧めします。

信託財産として不動産を入れる場合、登記費用だけで数十万円規模になることがあります。総費用を事前に見積もり、資金計画を立てることが大切です。

自分でできるか?

「費用を抑えるために自分で設計・手続きできないか」という相談は少なくありません。理論上は、信託契約書の作成は本人が行うことも不可能ではありません。ただし、実務上の観点からは、専門家なしでの対応には次のようなリスクが伴います。

  • 信託契約書の内容に不備があると、信託の効力が生じなかったり、後から無効とされるリスクがある
  • 信託口口座の開設には公正証書が必要な金融機関が多く、公証役場での手続きは個人でも可能だが煩雑
  • 信託登記の申請書作成は専門的知識が必要で、法務局で補正を繰り返すと時間がかかる
  • 信託財産の種類・家族構成が複雑なほど、自力対応のリスクは高まる

費用を節約しようとして不完全な信託設計になると、いざというときに機能しないという最悪のケースも起こり得ます。家族信託は一度組んだら変更しにくい性質があるため、最初の設計に費用をかけることが長い目で見ると合理的とされています。

家族信託のデメリット・注意点

損益通算ができない(節税効果の制限)

家族信託を利用する際に、意外と見落とされがちなのが税務上の制限です。

不動産を信託財産とした場合、信託不動産から生じる赤字(減価償却超過・修繕費超過など)は、受益者の他の所得と損益通算できません(所得税法第67条の3)。通常の不動産所有であれば、賃貸不動産の赤字を給与所得と損益通算して所得税を節税できますが、信託不動産では同じことができないのです。

税務署への届出として、信託の設定から一定期間内に「信託の計算書」の提出が必要な場合もあります。税務面の取り扱いは複雑であり、家族信託の組成前に税理士への相談を行うことが望ましいとされています。

また、委託者から受益者への受益権移転時に贈与税が発生するケースもあります。自益信託(委託者=受益者)の場合は基本的に贈与税は生じませんが、受益者が別人の場合は受益権の価値に応じた贈与税の課税対象となります(相続税法第9条の2)。

受託者の負担と責任

家族信託では、受託者(多くは子ども)が財産管理の中心的役割を担います。信託法に定める善管注意義務・忠実義務・分別管理義務を負い、信託財産の状況について定期的に受益者へ報告する義務もあります。

実務的な負担として、以下のような業務が継続的に発生します。

  • 信託口口座の出入金管理・帳簿記録
  • 不動産の修繕・テナント対応
  • 毎年の信託計算書の作成・税務申告サポート
  • 受益者(親)への定期的な状況報告

受託者が信託義務に違反した場合、受益者から損害賠償を請求される可能性もあります(信託法第40条)。受託者になる家族への十分な説明と合意形成なしに信託を設定すると、後々家族関係に亀裂が生じるリスクがあります。

受託者の負担を軽減する方法として、信託事務の一部を信託専門会社や司法書士に外注することも可能です。ただし、その分の費用は発生します。

信託できない財産(農地等)

信託法上、すべての財産が信託できるわけではありません。信託できない財産・しにくい財産を把握しておくことが重要です。

財産の種類 信託の可否 理由・注意点
農地 原則不可 農地法により農地の権利移転には農業委員会の許可が必要。信託への組み込みは困難
一身専属的権利(年金受給権・生活保護受給権等) 不可 本人のみが行使できる権利であり、信託財産にできない
債務(借入金) 原則不可(資産のみ信託可能) 負債は信託財産に含められない。ただし信託受益権の評価では考慮する場合あり
抵当権付き不動産 条件付きで可能なことも 抵当権者(金融機関)の同意が必要なケースが多い
借地権 地主の承諾が必要なケースが多い 借地契約の内容による

農地を多く所有する地主の方の場合、家族信託では対応できない財産が多くなる可能性があります。農地については、農業委員会に相談のうえ、別の方法(農業経営体への売却・相続による承継など)を検討する必要があります。

よくある質問(FAQ)

家族信託は親が元気なうちに始めないといけないのですか?

はい、委託者(財産を信託する側の人)に十分な判断能力がある間にしか、信託契約を結ぶことはできません。認知症が進行して判断能力が失われた後では、信託契約の締結ができません。軽度認知障害(MCI)の段階でも公証人や医師が契約能力に疑義を呈するケースがあるため、健康なうちに準備を進めることが重要とされています。70代前後での検討・着手が現実的な目安として挙げられることが多いですが、個人差があるため、気になった段階で専門家への相談をお勧めします。

家族信託を設定すると、親は自分の財産を自由に使えなくなりますか?

信託契約の設計次第です。信託財産に組み入れた財産については、日常的な管理・処分の権限は受託者に移りますが、受益者(多くの場合は委託者本人)が信託から生じる利益を受け取る権利は変わりません。また、信託に組み入れない財産(日常生活費に使う現金・預貯金など)については、引き続き本人が自由に使えます。信託財産の範囲は設計段階で決められるため、必要最低限の財産だけを信託に入れ、日常使いの資金は別に確保する形が一般的です。

家族信託の受託者に法人はなれますか?

なれます。信託法第7条は、未成年者・破産者などを除き、受託者になれる者の制限を定めていますが、一般的な法人はこれに該当しないため受託者になることが可能です。ただし、商業目的での信託業(営業信託)は信託業法に基づく免許が必要です。家族が設立した一般社団法人・合同会社などを受託者とするスキームも活用されていますが、設立・維持コストがかかるため、規模の大きい財産の管理に適した方法とされています。

信託はいつ終了しますか?変更・解除はできますか?

信託の終了条件は信託契約書に定めます。一般的な終了事由としては、受益者の死亡・信託期間の満了・信託目的の達成・委託者と受益者の合意による終了などが挙げられます。信託の変更については、委託者・受託者・受益者の三者合意があれば変更できるとされていますが(信託法第149条)、受益者が認知症になった後は合意形成が難しくなるため、変更権限の設計も事前に検討しておくことが重要です。一方的な解除(受託者による)は原則として認められていません。

家族信託と遺言書は両方作れますか?

両方作ることは可能であり、互いに補完する役割を果たすとされています。家族信託は信託財産の管理・承継に関する設計であり、遺言書は信託財産以外の財産(信託に入れなかった預貯金・動産など)の承継先を定めるために有効です。ただし、同じ財産について信託契約と遺言書の内容が矛盾する場合は、信託契約が優先されると解釈されることが多いとされています。信託と遺言を組み合わせる場合は、専門家に全体の設計を依頼し、矛盾が生じないよう調整することをお勧めします。

まとめ

家族信託は、認知症対策・相続対策・障害者への財産承継など、多様な目的に対応できる柔軟な制度です。成年後見制度と比べて家族主導で財産管理を進められる点が、注目を集めている大きな理由といえます。

この記事のポイントを整理します。

  • 家族信託の仕組み:委託者・受託者・受益者の三者構造で成り立ち、信託法に基づく財産の管理・承継を実現する
  • 成年後見との違い:家族信託は柔軟性・継続費用の面で有利なケースが多い。ただし身上監護には対応できないため、任意後見との併用が選ばれることもある
  • 手続きの流れ:設計→契約書作成(公正証書推奨)→信託口口座開設・登記→管理開始の4ステップ
  • 費用の目安:専門家費用30〜100万円程度+登記費用(財産評価額による)が必要
  • デメリット・注意点:損益通算の制限・受託者の負担・信託できない財産の存在を事前に把握しておく
  • タイミング:判断能力があるうちに着手することが不可欠。早期の専門家相談が重要

家族信託はすべての方に適しているわけではなく、財産の種類・家族構成・目的によって最適な方法は異なります。司法書士・弁護士・税理士などの専門家に相談のうえ、総合的に検討されることをお勧めします。

家族信託をはじめとする相続・終活に関するお悩みは、専門家への早めの相談が解決への第一歩です。

※本記事は2026年3月時点の信託法・相続税法・所得税法等に基づいて作成しています。法改正により内容が変わる場合がありますので、最新情報は専門家または国税庁・法務省の公式情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご判断は専門家にご相談ください。

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