遺言書で相続財産をほとんど受け取れなかった場合でも、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を取り戻せる可能性があります。
しかし、「誰がどのくらい請求できるのか」「具体的にどうやって請求すればいいのか」「期限はあるのか」といった疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
遺留分侵害額請求には1年という厳格な時効があるため、早めの対応が不可欠です。
本記事では、遺留分侵害額請求の基礎知識から具体的な請求手順、弁護士に依頼するメリットと費用まで、実務経験豊富な専門家の視点で詳しく解説します。
内容証明郵便の書き方、調停・訴訟の流れ、遺留分の計算方法など、実際に請求を進める上で必要な情報を網羅していますので、ぜひ最後までお読みください。
適切な手続きを踏めば、あなたの正当な権利を守ることができます。
父の遺言書で兄がほとんどの財産を相続することになっていました。私には何も請求する権利がないのでしょうか?
いいえ、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を請求できる可能性があります。ただし1年以内に手続きを開始する必要がありますので、早めに専門家に相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求とは何か
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって最低限の相続分(遺留分)を侵害された相続人が、侵害した人に対して金銭の支払いを請求できる制度です。
民法第1046条第1項において、「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定められています。
この制度は、被相続人の財産処分の自由と相続人の生活保障のバランスを取るために設けられた重要な権利です。
2019年7月の民法改正により、従来の「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変更され、請求できる内容が現物返還ではなく金銭のみとなりました。
✓ 遺留分侵害額請求の重要ポイント
- 最低限の相続分を金銭で請求できる制度
- 2019年7月の民法改正で現物返還から金銭請求に変更
- 被相続人の財産処分の自由と相続人保護のバランス制度
- 請求できるのは法定相続人の一部のみ
2019年民法改正による変更点
2019年7月1日施行の民法改正により、遺留分に関する制度が大きく変わりました。
最も重要な変更点は、請求内容が「現物返還」から「金銭請求」に一本化されたことです。
改正前の「遺留分減殺請求」では、不動産などの現物を共有状態にする必要があり、その後の処分や管理で紛争が長期化するケースが多くありました。
現在の「遺留分侵害額請求」では、侵害額に相当する金銭の支払いのみを請求するため、不動産の共有状態が発生せず、紛争解決がスムーズになったというメリットがあります。
ただし、受遺者や受贈者側にとっては、すぐに金銭を用意できない場合に困難が生じる可能性もあります。
そのため民法第1047条第5項では、裁判所が相当の期限を許与できる規定も設けられています。
遺留分侵害額請求ができる人・できない人
遺留分侵害額請求は、すべての相続人が行えるわけではありません。
民法第1042条では、遺留分を有するのは配偶者・子・直系尊属のみと定められており、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
つまり、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合には、たとえ遺言で全財産が他人に遺贈されていても、遺留分侵害額請求はできないということです。
遺留分を請求できるかどうかは、自分が法定相続人であるかどうか、そしてその立場が何かによって決まります。
○ 遺留分侵害額請求ができる人
- 配偶者(婚姻関係にある妻または夫)
- 子(実子・養子・非嫡出子含む)
- 直系尊属(父母・祖父母など。子がいない場合)
- 代襲相続人(子が先に死亡している場合の孫など)
× 遺留分侵害額請求ができない人
- 兄弟姉妹(民法第1042条により遺留分なし)
- 相続欠格者(民法第891条)
- 相続廃除された者(民法第892条)
- 相続放棄をした者(民法第939条)
配偶者・子・直系尊属の遺留分割合
遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって異なります。
民法第1042条第1項により、直系尊属のみが相続人である場合は遺留分は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1と定められています。
具体的な計算方法について、主なケースを見ていきましょう。
まず、配偶者と子が相続人の場合、遺留分は法定相続分の2分の1です。
配偶者の法定相続分は2分の1ですから、遺留分は全体の4分の1(1/2×1/2)となります。
子が1人の場合は法定相続分が2分の1なので、遺留分は全体の4分の1(1/2×1/2)です。
子が複数いる場合は、この4分の1を人数で割ることになります。
次に、配偶者のみが相続人の場合、法定相続分は全部(1)ですが、遺留分はその2分の1なので、全体の2分の1となります。
直系尊属のみが相続人の場合は例外的に遺留分が3分の1となり、他のケースよりも少なくなります。
📊 遺留分割合の早見表
| 相続人の組み合わせ | 各相続人の遺留分 |
|---|---|
| 配偶者のみ | 全体の1/2 |
| 配偶者と子1人 | 配偶者1/4、子1/4 |
| 配偶者と子2人 | 配偶者1/4、子各1/8 |
| 子のみ(1人) | 全体の1/2 |
| 直系尊属のみ | 全体の1/3を人数で割る |
兄弟姉妹には遺留分がないということは、遺言で全財産を他の人に渡すと書かれていても何もできないのですか?
はい、兄弟姉妹が相続人となる場合には遺留分がありませんので、遺言の内容に従うことになります。これは民法で明確に定められています。
遺留分侵害額請求のやり方【6つのステップ】
遺留分侵害額請求を実際に進める際には、段階的に手続きを踏んでいく必要があります。
最初は任意の交渉から始め、合意に至らなければ調停、それでも解決しなければ訴訟へと進むのが一般的な流れです。
適切な順序で手続きを進めることで、時間と費用を最小限に抑えながら権利を実現できる可能性が高まります。
以下、具体的な6つのステップについて詳しく解説していきます。
ステップ1:遺留分侵害の事実を確認する
まず最初に行うべきことは、本当に自分の遺留分が侵害されているかどうかを正確に確認することです。
相続財産の全体像を把握し、遺言書や生前贈与の内容を調査する必要があります。
具体的には、不動産の登記簿謄本、預貯金の残高証明書、有価証券の評価額、生命保険金の受取状況などを収集します。
また、被相続人が生前に行った贈与についても、過去10年分(相続人に対する贈与)または1年分(第三者に対する贈与)を調査する必要があります。
これらの情報を基に、自分が本来受け取れるはずの遺留分額と、実際に受け取った(または受け取る予定の)財産額を比較します。
この段階で専門家に相談することで、見落としがちな財産や計算ミスを防ぐことができます。
✓ 確認すべき主な項目
- 遺言書の内容(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)
- 相続財産の総額(不動産・預貯金・有価証券・動産など)
- 生前贈与の有無と金額(相続人への贈与は10年分、第三者は1年分)
- 相続債務の額(借入金・未払税金など)
- 特別受益に該当する贈与(婚姻・養子縁組・生計の資本)
ステップ2:内容証明郵便で請求の意思表示をする
遺留分侵害の事実が確認できたら、内容証明郵便によって侵害者に対して請求の意思表示を行います。
この意思表示は、民法第1046条第2項により時効を中断させる効果があるため、極めて重要な手続きです。
内容証明郵便を送る理由は、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、後の紛争で証拠として使えるからです。
請求の意思表示は、侵害者(受遺者または受贈者)に対して行う必要があり、相続の開始と遺留分侵害の事実を知った時から1年以内に行わなければなりません。
内容証明郵便には、請求者の氏名・住所、受取人の氏名・住所、被相続人の氏名と死亡日、遺留分侵害額請求を行う旨、請求金額(概算でも可)、回答期限などを記載します。
文書の書き方には一定の形式がありますので、弁護士に依頼して作成・送付してもらうのが確実です。
ステップ3:当事者間での交渉を試みる
内容証明郵便を送付した後は、まず当事者間での任意の交渉を試みます。
多くのケースでは、この段階で和解に至ることができれば、時間的にも費用的にも最も効率的です。
交渉では、遺留分侵害額の計算根拠を示し、支払い方法(一括払いか分割払いか)や支払い時期について話し合います。
ただし、感情的な対立がある場合や、相手方が請求自体を認めない場合には、直接の交渉が難航することも少なくありません。
そのような場合には、弁護士を代理人として交渉を進めることで、冷静かつ法的に適切な形で話し合いを進めることができます。
弁護士が介入することで、相手方も真剣に対応せざるを得なくなり、交渉がスムーズに進むケースは多くあります。
交渉が成立した場合には、必ず合意内容を書面化(和解契約書または示談書)し、公正証書にしておくことが望ましいでしょう。
○ 任意交渉のメリット
- 調停や訴訟に比べて時間がかからない
- 弁護士費用や裁判費用を抑えられる
- 柔軟な解決策(分割払いなど)を設定しやすい
- 親族関係の悪化を最小限に抑えられる
ステップ4:調停を申し立てる
任意の交渉で合意に至らなかった場合、次の段階として家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。
調停は、裁判官1名と調停委員2名以上で構成される調停委員会が、当事者双方の主張を聴き取り、合意による解決を目指す手続きです。
申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です。
申立てに必要な書類は、調停申立書、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺言書の写しまたは検認調書謄本、相続財産目録などです。
調停では、調停委員が中立的な立場から双方の意見を調整してくれるため、感情的な対立を避けながら話し合いを進められるというメリットがあります。
ただし、調停はあくまで話し合いによる解決を目指す手続きですので、相手方が出席しない場合や合意が成立しない場合には、調停不成立となります。
調停が成立した場合には調停調書が作成され、これは確定判決と同じ効力を持ちます。
調停は必ず申し立てなければならないのでしょうか?いきなり訴訟を起こすことはできませんか?
遺留分侵害額請求訴訟には調停前置主義が適用されませんので、調停を経ずにいきなり訴訟を提起することも可能です。ただし、実務上は調停を先に試みるのが一般的で、解決の可能性が高いケースも多いです。
ステップ5:訴訟を提起する
調停でも合意に至らなかった場合、または最初から訴訟を選択する場合には、地方裁判所または簡易裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起します。
請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が管轄となります。
訴訟では、原告(請求する側)が遺留分侵害の事実と侵害額を立証する責任を負います。
具体的には、相続財産の評価額、生前贈与の有無と金額、特別受益の有無、相続債務の額などについて、証拠書類を提出して主張していきます。
訴訟手続きは法律知識と訴訟技術が必要となるため、弁護士に依頼するのが一般的です。
訴訟では、書面による主張と証拠の提出、証人尋問、当事者尋問などが行われ、最終的に裁判所が判決を下します。
判決に不服がある場合には、高等裁判所への控訴、さらには最高裁判所への上告も可能ですが、それぞれ厳格な要件があります。
⚠ 訴訟のデメリット
- 解決まで通常1年以上かかる(控訴・上告するとさらに長期化)
- 弁護士費用が高額になる(着手金・成功報酬が必要)
- 裁判所の判決は柔軟性に欠ける(分割払いなどの調整が難しい)
- 親族関係の修復がさらに困難になる可能性がある
ステップ6:和解または判決による解決
訴訟中でも、裁判所の勧めにより和解による解決を図ることができます。
実際、多くの遺留分侵害額請求訴訟は、判決に至る前に和解で終結しています。
和解のメリットは、双方が納得した内容で紛争を終結できること、判決よりも柔軟な解決策(分割払いの設定など)を取り入れられることです。
和解が成立すると和解調書が作成され、これも確定判決と同じ効力を持ちます。
一方、和解が成立せずに審理が尽くされた場合には、裁判所が判決を下します。
判決では、遺留分侵害額として認められる金額と、それに対する遅延損害金(年3%または年5%)の支払いが命じられることになります。
判決が確定すれば、相手方が任意に支払わない場合には強制執行により回収することが可能となります。
遺留分侵害額請求の期限と時効
遺留分侵害額請求には、厳格な期限が定められています。
民法第1048条では、遺留分侵害額請求権は「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき」に時効によって消滅すると規定されています。
また、「相続開始の時から10年を経過したとき」にも消滅します。
特に1年という短期間の時効は注意が必要で、この期間を過ぎると権利が完全に失われてしまいます。
1年の短期消滅時効
遺留分侵害額請求権の最も重要な期限は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」という短期消滅時効です。
ここで重要なのは、単に「相続が開始したことを知った時」ではなく、「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」という点です。
つまり、被相続人が亡くなったことは知っていても、遺言の内容や生前贈与の事実を知らなければ、時効は進行しないと考えられます。
ただし、実務上は「いつ知ったか」という立証が困難な場合も多いため、相続開始を知った時点でできるだけ早く行動することが重要です。
時効を止めるためには、前述の通り内容証明郵便による請求の意思表示を行う必要があります。
ただし、内容証明郵便による意思表示は一時的な時効の完成猶予(旧法の時効中断)にすぎず、6か月以内に調停申立てまたは訴訟提起をしなければ、時効完成猶予の効果は失われます。
✓ 1年の時効を止める方法
- 内容証明郵便で請求の意思表示をする(6か月の時効完成猶予)
- 遺留分侵害額請求調停を申し立てる(調停係属中は時効停止)
- 遺留分侵害額請求訴訟を提起する(訴訟係属中は時効停止)
- 相手方が請求を認める(債務の承認により時効更新)
10年の除斥期間
遺留分侵害額請求権には、もう一つの期限として「相続開始の時から10年」という除斥期間があります。
これは、遺留分侵害の事実を知らなかったとしても、相続開始から10年が経過すると権利が消滅するという絶対的な期間制限です。
除斥期間は時効とは異なり、中断や停止という概念がありませんので、どのような事情があっても10年で確定的に権利が消滅します。
この規定の趣旨は、長期間経過した相続関係については法的安定性を優先するという点にあります。
実務上、10年という期間は比較的長いため、多くのケースでは1年の短期消滅時効の方が問題となりますが、遺言の存在や内容が長期間隠されていたような特殊なケースでは10年の除斥期間が問題になることもあります。
父が亡くなってから3か月経ちましたが、まだ遺言書の内容をすべて把握できていません。1年の期限に間に合わないかもしれないと心配です。
1年の時効は「遺留分侵害を知った時」から進行しますので、遺言内容を完全に把握していない段階では時効は完成していない可能性があります。ただし、後から立証が難しくなる可能性もありますので、早めに弁護士に相談して、必要に応じて内容証明郵便を送付しておくことをおすすめします。
遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額を正確に計算することは、請求を成功させるための最も重要な要素の一つです。
計算は複雑で、相続財産の評価、生前贈与の持ち戻し、特別受益の考慮、相続債務の控除など、多くの要素を考慮する必要があります。
正確な計算のためには専門的な知識が必要であり、弁護士や税理士などの専門家に依頼することが推奨されます。
基礎となる財産の算定
遺留分侵害額の計算は、まず「遺留分算定の基礎となる財産」を確定することから始まります。
民法第1043条第1項により、この基礎財産は次のように計算されます。
【基礎財産 = 相続開始時の積極財産 + 贈与財産 – 相続債務】
まず、相続開始時(被相続人の死亡時)に存在した積極財産(不動産、預貯金、有価証券、動産など)を評価します。
次に、一定期間内の贈与財産を加算します。
贈与財産の持ち戻し期間については、2019年の民法改正により重要な変更がありました。
改正後の民法第1044条第3項では、相続人に対する贈与は相続開始前10年間のものが対象となり、第三者に対する贈与は相続開始前1年間のものが対象となります。
そして最後に、相続債務(借入金、未払税金など)を控除します。
この計算で求められた基礎財産に、各相続人の遺留分割合を乗じることで、その人の遺留分額が算出されます。
📝 基礎財産の計算例
【前提】
- 相続開始時の財産: 5,000万円(自宅不動産3,000万円、預貯金2,000万円)
- 相続開始3年前の長男への贈与: 1,000万円
- 相続債務: 500万円
- 相続人: 配偶者と子2人(長男・次男)
【計算】
基礎財産 = 5,000万円 + 1,000万円 – 500万円 = 5,500万円
配偶者の遺留分 = 5,500万円 × 1/2 × 1/2 = 1,375万円
各子の遺留分 = 5,500万円 × 1/2 × 1/4 = 687.5万円
特別受益の持ち戻し
相続人が被相続人から受けた特別受益(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与)は、遺留分算定の基礎財産に加算されます。
民法第1044条第1項により、この特別受益は相続開始前10年以内のものが対象となります(改正前は期間制限なし)。
特別受益に該当する主な例としては、住宅購入資金の援助、事業資金の援助、婚姻時の持参金、高額な学費などがあります。
ただし、すべての贈与が特別受益になるわけではなく、小遣い程度の金額や、他の相続人も同程度受けている場合には特別受益と認められないことがあります。
また、被相続人が「持ち戻し免除の意思表示」をしていた場合には、その贈与は遺留分算定の基礎財産に加算されません(民法第1044条第3項ただし書)。
ただし、この持ち戻し免除の意思表示も、遺留分権利者の権利を侵害する限度では効力を有しないとされています。
具体的な侵害額の計算
実際に請求できる遺留分侵害額は、次の計算式で求められます。
【遺留分侵害額 = 遺留分額 – 遺留分権利者が受けた特別受益 – 相続によって取得した財産 + 相続債務の負担額】
まず、前述の方法で算出した遺留分額を基準とします。
そこから、遺留分権利者自身が被相続人から受けた特別受益の額を差し引きます。
次に、遺言や法定相続によって実際に取得した財産額を差し引きます。
最後に、相続債務のうち遺留分権利者が負担すべき額を加算します。
この計算で正の数値が出れば、その金額を侵害者に請求できることになります。
📊 遺留分侵害額の計算例
【前提】
- 基礎財産: 5,500万円(前例と同じ)
- 相続人: 配偶者・長男・次男
- 遺言: 全財産を長男に相続させる
- 次男は過去に特別受益なし、相続で取得した財産もなし
【次男の遺留分侵害額】
遺留分額: 687.5万円(前述の計算)
特別受益: 0円
相続で取得した財産: 0円
相続債務の負担: 500万円 × 1/4 = 125万円
遺留分侵害額 = 687.5万円 – 0円 – 0円 + 125万円 = 812.5万円
弁護士に依頼するメリット
遺留分侵害額請求は、法律知識がない一般の方が自分で行うことも不可能ではありませんが、弁護士に依頼することで得られるメリットは非常に大きいといえます。
特に相手方との交渉が感情的になりやすい相続問題では、専門家が介入することで冷静かつ効率的に問題解決を図ることができます。
正確な侵害額の計算と立証
遺留分侵害額の計算は、前述のとおり非常に複雑です。
弁護士に依頼することで、相続財産の評価、生前贈与の持ち戻し、特別受益の判定など、専門的な知識を要する計算を正確に行うことができます。
特に不動産の評価額については、路線価、固定資産税評価額、実勢価格など複数の評価方法があり、どの評価方法を採用するかで侵害額が大きく変わることがあります。
また、生前贈与の事実を調査するためには、金融機関への照会、登記簿の調査、相手方への質問など、様々な手段を講じる必要があります。
弁護士であれば弁護士会照会制度を利用して金融機関から情報を取得できるため、個人では入手困難な証拠も収集可能です。
交渉・調停・訴訟の代理
遺留分侵害額請求では、相手方との交渉、家庭裁判所での調停、地方裁判所での訴訟など、様々な手続きが必要になる可能性があります。
弁護士に依頼すれば、これらすべての手続きを代理してもらえます。
特に交渉段階では、弁護士が代理人として前面に立つことで、依頼者自身が相手方と直接やり取りする精神的負担を軽減できます。
また、感情的な対立がある場合でも、弁護士を介することで冷静かつ法的に適切な形で話し合いを進めることができます。
調停や訴訟では、法的な主張の組み立て、証拠の収集と提出、相手方の主張に対する反論など、高度な法律知識と訴訟技術が必要です。
弁護士であれば、判例や学説に基づいた説得力のある主張を展開し、有利な結果を得られる可能性が高まります。
✓ 弁護士に依頼する主なメリット
- 正確な遺留分侵害額の計算と証拠収集
- 内容証明郵便の作成と送付
- 相手方との交渉を代理(精神的負担の軽減)
- 調停・訴訟での代理人としての活動
- 弁護士会照会による情報収集
- 有利な和解条件の引き出し
- 判決後の強制執行手続きのサポート
時効管理と迅速な対応
前述のとおり、遺留分侵害額請求権には1年という短期間の消滅時効があります。
弁護士に依頼すれば、時効管理を適切に行い、期限内に必要な手続きを確実に行うことができます。
相続が発生してから遺言内容の把握、財産調査、侵害額の計算、内容証明郵便の送付までを1年以内に行う必要があるため、時間的余裕はあまりありません。
弁護士に依頼すれば、相談したその日から迅速に調査を開始し、必要な書類の作成や手続きを進めてもらえます。
また、内容証明郵便を送付した後も6か月以内に調停または訴訟を提起しなければ時効完成猶予の効果が失われるため、その後の手続きも計画的に進める必要があります。
弁護士であれば、こうした複雑な期限管理を確実に行い、依頼者の権利を守ることができます。
弁護士に依頼したことで、自分では気づかなかった生前贈与の事実が判明し、請求額が大幅に増えました。専門家に任せて本当に良かったです。
弁護士費用の相場と内訳
遺留分侵害額請求を弁護士に依頼する場合、費用がどのくらいかかるのかは多くの方が気になるポイントでしょう。
弁護士費用は事務所によって異なりますが、一般的な相場と費用体系について解説します。
着手金と成功報酬の仕組み
弁護士費用は、通常「着手金」と「成功報酬」の二本立てになっています。
着手金とは、事件を依頼した時点で支払う費用で、結果に関わらず返還されません。
成功報酬とは、事件が解決し、実際に金銭を回収できた場合に、その金額に応じて支払う費用です。
遺留分侵害額請求の場合、着手金の相場は請求額の5〜10%程度、成功報酬は回収額の10〜20%程度が一般的です。
ただし、請求額が高額になるほど料率は低くなる傾向があります。
例えば、1,000万円の遺留分侵害額を請求する場合、着手金は50万円〜100万円程度、成功報酬は回収できた金額の10〜20%(全額回収できれば100万円〜200万円)となることが多いでしょう。
なお、着手金が無料または低額で、成功報酬の割合を高く設定している事務所もありますので、複数の事務所に相談して比較することをおすすめします。
💰 弁護士費用の相場(目安)
| 請求額 | 着手金 | 成功報酬 |
|---|---|---|
| 300万円 | 20〜30万円 | 回収額の15〜20% |
| 1,000万円 | 50〜100万円 | 回収額の10〜15% |
| 3,000万円 | 100〜200万円 | 回収額の8〜12% |
※ 事務所により異なります。別途、実費(印紙代・郵送費など)が必要です。
実費と日当
弁護士費用には、着手金と成功報酬のほかに、実費と日当が必要になる場合があります。
実費とは、訴訟の際の印紙代、郵便切手代、交通費、宿泊費、登記簿謄本や戸籍謄本の取得費用などです。
訴訟を提起する場合、請求額に応じた印紙を裁判所に納める必要があります。
例えば、1,000万円の請求訴訟では印紙代は5万円、3,000万円では12万円が必要です。
日当とは、弁護士が裁判所への出廷など、事務所外での活動に要した時間に対する費用です。
半日の場合は3万円〜5万円程度、1日の場合は5万円〜10万円程度が相場です。
ただし、近年はオンライン法廷も増えており、日当が発生しないケースも増えています。
相談料と初回無料相談
弁護士に正式に依頼する前に、まず相談料が必要になることがあります。
一般的な法律相談料は30分5,000円〜1万円程度ですが、相続問題を専門に扱う弁護士事務所の多くは初回相談を無料としています。
初回無料相談を活用すれば、費用をかけずに自分のケースで請求が可能かどうか、どのくらいの金額を請求できそうか、弁護士費用はどのくらいかかるかを確認できます。
複数の事務所に相談して、弁護士の対応や費用を比較検討することも有効です。
ベンナビ相続では、相続問題に強い弁護士を地域や条件で検索でき、初回相談無料の事務所も多数掲載されています。
よくある質問(FAQ)
遺留分侵害額請求に関して、多くの方が疑問に思われる点についてQ&A形式でまとめました。
Q1. 遺留分を放棄することはできますか?
はい、遺留分を放棄することは可能です。
ただし、相続開始前(被相続人の生前)に遺留分を放棄する場合には、家庭裁判所の許可が必要です(民法第1049条第1項)。
家庭裁判所は、本人の自由意思に基づくものか、放棄の対価として相応の財産を受け取っているかなどを審査します。
一方、相続開始後であれば、家庭裁判所の許可なく自由に遺留分を放棄できます。
単に請求しないという形でも放棄したことになりますし、遺留分を侵害している相手と合意書を交わすこともできます。
Q2. 遺言書に「遺留分を請求しないこと」と書かれている場合はどうなりますか?
遺言書に「遺留分を請求しないこと」という記載があったとしても、その記載自体に法的拘束力はありません。
遺留分は法律で保障された権利であり、遺言によって奪うことはできないからです。
したがって、そのような記載があったとしても、遺留分権利者は遺留分侵害額請求を行うことができます。
ただし、前述のとおり相続開始前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄していた場合には、請求はできません。
Q3. 遺留分侵害額請求をすると相続放棄できなくなりますか?
遺留分侵害額請求と相続放棄は別の制度です。
遺留分侵害額請求は相続人としての地位を前提とした権利行使ですので、請求を行った後は相続放棄をすることができなくなると考えられます。
相続放棄は「相続の開始を知った時から3か月以内」に家庭裁判所に申述する必要がありますので、被相続人に多額の債務がある場合には、遺留分侵害額請求をするか相続放棄をするか、慎重に判断する必要があります。
一般的には、相続財産(積極財産)よりも相続債務の方が多い場合には相続放棄を選択し、積極財産の方が多い場合には遺留分侵害額請求を検討することになります。
Q4. 複数の受遺者がいる場合、誰にどれだけ請求すればいいですか?
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数ある場合、民法第1047条第1項により、まず遺贈を受けた者(受遺者)から請求し、それでも不足する場合に贈与を受けた者(受贈者)に請求することになります。
受遺者が複数いる場合には、各受遺者が受けた遺贈の価額の割合に応じて請求します。
受贈者が複数いる場合には、後の贈与から順次遡って請求していきます(新しい贈与から先に減殺される)。
このように、請求の順序や割合には一定のルールがありますので、複数の相手方がいる場合には弁護士に相談して適切に請求することが重要です。
Q5. 遺留分侵害額請求をしたら親族関係が悪化しませんか?
遺留分侵害額請求は法律で認められた正当な権利行使ですが、親族間の感情的な対立を深める可能性があることは否定できません。
ただし、遺留分は「最低限保障された相続分」であり、あなたが受け取るべき正当な財産です。
弁護士を代理人として立てることで、あなた自身が直接交渉する必要がなくなり、感情的な対立を最小限に抑えられる可能性があります。
また、調停や訴訟という公的な手続きを利用することで、第三者(調停委員や裁判官)が間に入り、客観的な立場から適切な解決を導いてくれます。
親族関係を重視するあまり権利を放棄してしまうと、後悔することもありますので、まずは専門家に相談して冷静に判断することをおすすめします。
まとめ:遺留分侵害額請求は早めの相談が重要
遺留分侵害額請求は、遺言や生前贈与によって最低限の相続分を侵害された相続人が、金銭の支払いを請求できる重要な権利です。
本記事では、請求できる人と割合、具体的な請求手順、時効、計算方法、弁護士に依頼するメリットと費用について詳しく解説してきました。
最も重要なポイントは、1年という短期間の消滅時効があるため、相続開始を知ったらできるだけ早く行動を起こすことです。
遺留分侵害額の計算は複雑で、相続財産の評価、生前贈与の持ち戻し、特別受益の判定など、専門的な知識が必要です。
また、内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停・訴訟の手続きなど、法律の専門家でなければ適切に対応することが難しい場面も多くあります。
弁護士に依頼することで、正確な侵害額の計算、証拠の収集、時効管理、交渉・調停・訴訟の代理など、多くのメリットが得られます。
費用はかかりますが、多くの事務所では初回相談を無料としていますので、まずは気軽に相談してみることをおすすめします。
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あなたの正当な権利を守るため、早めに専門家に相談し、適切な手続きを進めていきましょう。
⚠ 免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な法律相談に代わるものではありません。遺留分侵害額請求に関する判断は、個々の事案によって異なる場合がありますので、実際に請求を検討される際には、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行動された結果について、当サイトは一切の責任を負いかねます。








